日本学術振興会 学術変革領域研究(B)

バクテリアUXが切り拓く生命科学とバイオ技術

長浜バイオ大学
バイオサイエンス学部

石川 聖人

微生物は地球で最初に誕生した生命体です。人類は古代より微生物と共生し、ものづくりにも彼らを利用してきました。しかし、発酵生産や醸造だけでなく、腐敗や病気の発症にも微生物が関わっていることが明らかになるには、パスツールやコッホの時代(約150年前)まで待たなければなりませんでした。人類は多くの生物と共生していますが、最も長く付き合ってきたはずの微生物を理解し始めたのは最近のことであり、まだまだ理解が足りていません。

大腸菌は研究者が最もお世話になっている微生物と言っても過言はありません。微生物のなかでも極めてシンプルな構造を有している細菌(バクテリア)に分類され、非常に扱いやすいことから、20世紀に勃興した分子生物学の躍進を支えてきました。特に、遺伝子組換えが容易であるという大腸菌の特徴は、生命科学研究とバイオ技術開発になくてはならないものになっています。DNAを扱う者であれば、ほぼ間違いなく大腸菌に遺伝子を導入する操作「形質転換」を実施します。

全ての細菌が大腸菌のように扱いやすいかというとそうではありません。遺伝子組換えにおいては、大腸菌以外の多くの細菌ではとても困難です。私は、このことについてずっと疑問を持っていましたが、最近の研究成果から問題解決の糸口を掴みつつあります。遺伝子組換えは、細菌を理解することや、利用することにおいて非常に有効です。遺伝子組換えのための形質転換をあらゆる細菌で可能になれば、細菌ともっとうまく付き合うことができ、生命科学研究とバイオ技術開発を大きく発展させることができると考えます。領域名のバクテリアUXには、あらゆる細菌を形質転換するという意味のUniversal transformationと、ユーザーの扱いやすさを意味するUser experienceの思いを込めています。