日本学術振興会 学術変革領域研究(B)

本領域では、細菌分子生物学(A01班)に加え、核酸化学(A02班)とナノバイオ材料工学(A03班)の技術を組み合わせることで、ユニバーサル形質転換の実現を目指します。自然界では外来DNAの侵入と複製を、実験室では組換えDNAによる形質転換を妨げている細菌のファイアウォールを突破するための基礎研究と技術開発を行います。

生体膜構造制御とナノバイオ材料から目指す
ユニバーサル形質転換

自然のなかで細菌たちは、ファージと呼ばれるウイルスに囲まれて暮らしています。ファージの数は細菌数の10倍以上と言われており、常に感染リスクに曝されています。ファージは自身のDNAを細菌細胞に送り込み、細菌の生物システムをハイジャックしようと試みますが、細菌は侵入してきたファージDNAを異物と見なして排除します。ここで重要な点は、細菌はファージDNAを異物、自身のDNAは自己として見分けているところです。

人工的に作成した組換えDNAも、細菌にとっては異物に他なりません。細菌がどのように自己と異物を見分けて排除しているのかを明らかにすることはユニバーサル形質転換の実現に重要です。さらに、組換えDNAを異物ではなく、自己だと思わせることができたら、細菌は排除せずに受け入れてくれるはずです。私たちは、細菌が外来DNAを排除する機構の解明と、その迂回方法を開発します。

長浜バイオ大学 
バイオサイエンス学部

石川 聖人

https://www.environmental-
synbio.com/

大阪大学 
工学研究科

青木 航

https://aoki-lab.wraptas.site/

東京海洋大学 
学術研究院

小祝 敬一郎

https://genome-lab.jp/

アンチセンス核酸による細菌遺伝子発現制御で目指す
ユニバーサル形質転換

私たちは、細菌の遺伝子の働きをコントロールし、細菌の可能性を広げる研究に挑戦していきます。細菌は、ファイアウォールの仕組みとして「門番」(ヌクレアーゼ等)を配置し、自分たちを守るために、外から入ってきた新しい遺伝子を排除します。私たちは、この門番をうまく眠らせることで形質転換を実現し、細菌に新しいチカラを持たせる技術を開発していきます。ポイントは、門番に見つからないような、“ステルス”型の分子を使うことです。具体的には、天然の核酸DNAやRNAとカタチは異なるけれども、天然核酸と同様のふるまいをする人工核酸です。これによって、細菌が本来持っている防御力を一時的にオフにし、新しい機能をもった遺伝子を組み込むことで、細菌に新しい働きをもたせることができます。

もしこの技術が完成すれば、環境や産業に役立つ細菌や、病気を引き起こす細菌だけをピンポイントで抑える新しい薬の開発が可能になるなど、さまざまな夢が広がります。

神戸薬科大学 
生命分析化学研究室

神谷 由紀子

https://www.kobepharma-
u.ac.jp/analchem/

神戸薬科大学 
生命分析化学研究室

有吉 純平

https://www.kobepharma-
u.ac.jp/analchem/

生体膜構造制御と
ナノバイオ材料から目指すユニバーサル形質転換

遺伝子導入の話になると、つい細胞膜は「破るべき障壁」のように扱われがちです。

膜は、普段から物質の出入りをきわめて巧妙にコントロールしています。つまり、膜は「意志のあるゲート」。敵ではなく、むしろ交渉相手かもしれません。ならば、そのゲートが「どうすれば通してくれるのか」を理解し、その意図に合わせたキャリアのデザインや膜構造の誘導を行えばいい。私たちの研究はこの視点に立ち、膜曲率認識タンパク質や透過ペプチド、そして多様な金ナノ粒子ライブラリーを駆使して、膜と対話しながら遺伝子を通す新しい方法に挑んでいます。

そして、こうした「膜との対話の法則」がもし普遍的に見えてきたら?細胞種を問わず応用できるユニバーサルな形質転換の扉が開かれるはずです。細胞膜は「破るべき壁」なのか、「対話すべき存在」なのか?私たちはいま、その問いに科学の視点から答えようとしています。

東京科学大学 
物質理工学院

田中 祐圭

http://
matanaka.cap.mac.titech.ac.jp/

東京農工大学

モリ テツシ

https://web.tuat.ac.jp/
~moritets/